次に池、の中に魚
コイだろうか。
池の外は木地でこれもいい。
乗り物シリーズも始まる。
ショベルカーは白い描線に黄色い車体
エンジのショベルとまた
色合いがいい。
板の下端が地面であり、
そこにピッタリとキャタピラをつけて
編み出される接地感。
次はセダンタイプのスポーツカーだろうか。
流れる空気のように背景には色々の
短い線が模様のように繰り返される。
緑青系の車は流線形で
明らかに進んでいる。
タンクローリーはリアルな緑色の
ローリーを回し、
唯一の家具シリーズ、タンスは
はじめふすまかと思ったが、
白いしかくい線の内側はエンジ色になり
背丈違いで二つ並んでいる。
タルホは悪魔が得意である。
2枚の板に、それぞれオリジナルを描き、
脇には考案したというマークを記す。
ミチルはハルキの妹で、
家族の画を描く。それは紙だった。
肌色のクレパスか何かを取り、
顔かたちを描き、目のところに
黒の前にまず白色を差すのである。
それは何であるか聞くと、
白目と黒目があるでしょと、
そうか、その通りだ。
描く瞬間を見るというのは、まさに
表現を鑑賞するという瞬間である。
描き終わったものを眺める以上に、
筆のたもとの、その手先からさかのぼる
感情の一々。
何枚か描き
ミチルは母に見せに行く。
板にも描く。
肌色に近づける混色を助言し、
逐次混ぜながら
白や赤や黄色
同じように顔かたち、目
立派な指。
眉毛は筆の太さに押されて太くなる。
ああ、太くなったね。と
その筆で絵の具を拭おうとするから
さらに太くなる。
時々、追加の板をきりに行く。
あればあるだけ消えていく。
裏口から道路へ出て、
広い歩道の隅で、外テーブルのお客さんの近くで
ギコギコと木粉を散らして枚数をつくる。
サンドペーパーを当てて端のギザギザを取ったら
できあがり。
公園でやる鬼ごっこ。
屋内を抜け出し、遊具につかまり
いつの間にか始まる追いかけっこ
日頃の鈍りを忘れた奮迅で
筋肉も痛むだろう一際老けた
おじさんの肉体。
テんが早い。追いつけそうで追いつけない
何をこれしき、もうこれが全力だろうか。
久々の運動すぎて、自分自身がわからない。
まだ加速できるのか
遊びの中で、余力の在り処もわからない
ただ思い出すように駆ける足。
ミチルが一人ブランコ。
近づくと、
誰も遊んでくれないと、
つぶやくようにはっきりとした声。
そうだ。野郎どもは身体を動かすのに夢中で、
全員参加かどうかなんて、確認もしていなかったんだ。
ごめんよ。隣で漕ぎ始める、
靴を飛ばしてもいい。
明日が晴れでも雨でもいい。
おもむろに始まったブランコ
否応なし、骨抜きの鬼ごっこ
イトは膝で乗る。
試すと漕ぎにくい、あれは技術がいるぞ。
靴を拾ってもらう、拾いに行く。
揺り上がる、空の方、木の方を
脱力して持ち上げられるまま見上げる。
二本足で立つ走る一時から解放されて
預けた重みで空中を飛ぶ。
そういえばナツメはどこへ行った。
どこかへ行ったねと言いながら潮時の公園。
そろそろ家へ帰ろう。
夕方の家、スナックが始まる。
ナツメ、居ないね。
着付けが始まる2階
暖色のカウンター
おでんもそろそろ始まろうか。
ナツメが追って顔を出す。
もう、ずっと木の上にいたのに。
あれか。隠れたまま隠れんぼが終わるみたいな
そういう寂しい幕切れを僕らはやったんだ。
まさか木の上に居るなんて、一度も見上げもしなかった。
そのうち帰るだろうと思って、そのうち帰ってきた彼は
悲しさというより、行き場のない興奮をようやく
吹きだしたように軽く息を切らした。
徐々に賑わうスナック。
声が溢れ、酒とつまみがならぶ
その賑わいに入る隙を見出せず
休憩室でしばらく過ごす。
子どもたちは2階へ上がり、TVの前。
ここでお暇かと心を決め、
2階の皆へ挨拶にあがり
一日目を後にした。