1/26 wild

日曜市

雨が続く。
母屋周りを想像しながら
天気予報のくもりを見て
うなずくように、息をする。

その土のぬかるみの具合と
草のどの程度濡れているかなど改めて想像し
何をしようか、

何かしようと思う。


小じんまりと広場に接する形で
テントが並んでいる。
はなれの軒下
雨は降らず、屋内と野外の中間位置のような
布陣のその一角を借りる。

ベンチに腰掛け話す数人、
テンシーハルカチワあたりである。
テーブルを広げ、できたての冊子を
置くためのたて看板を組み立てる。
ビスとドライバー。
溝を舐めそうな一締めを適当に済ませ、

除々にからまれる。
彼らはしなるような長い枝を持っている。
それは釣り竿のようだった。
釣り方は糸がなく、
竿の先に直接獲物をとらえる。
あらゆる巨大な重さも
竿先を引っ掛け、もしくはただ触れさせて
釣れた!という瞬間である。
引き上げるという機能を捨てたおかげで
この大きなテーブルも、植木鉢も立て看板も
人間一人だって入れ食い状態である。

これはムチにもなるんよと、シー

ひとまず紙を広げて、座っているうしろで
こそこそと僕の上着のフードに
釣果が入れられる。
折れた竿とか、はげた木の皮とか
おいおい、頑張って竿に引っ掛けて乗っけて運ぶ
そのくだりは誉めるけども
やり口がいやらしいじゃないか。

そうかそれであの時かがんだら
何か落ちてきたのか。

画上は机テーブルの画
立体に描く方法を
思い出すようにひねり出すテン。
探究者は画面と格闘するように
デッサンを重ね
これでもない、あれでもないと
あぐねる顔。
シーも2台描く。
天板と足。
その角度や形。
おっとアカデミックな技法か、
透視図法か。
そう思いながら眺め、
各自の図法を観察する。
ひとまず自分でもざっくりかいてみる。
ひと通り出揃って、こんな感じ?と
自前のを出すと、
いや、
とテンが自分の技法を説明する。
天板があって、その足の角度が垂直ではなくて
外側に広がるようにななめに成っているのだが、
視点の問題だった。
こっちから見るとと紙を動かし、こうで、
それでこっちから見るとこう、と
紙を反対側に傾ける。
そうか、全くキュビズムでないかと
納得し、危うく定説を投げかける年配者と
なりかけた自分を見る。
シーの作品の批評に入り、
こっちがいいねと寸評が入る。

そうその始まりはハルカがベッドを描き始めたことだったか。
真横から始まった視点は、
あっという間に斜め上からの視点に変わり、
すごいね。
立派なベッドに女の子が眠る。
寝癖かき足したりする。
立体的な技術に感心していると、
その方面のコンペティションが始まったわけである。

しまいに距離をとって離れたテンが
なんとも神妙集中の良い表情をして
こちらを見ているから、
みんなに、ほら見て
ええ顔してるわ。
とご紹介
まだ何か思い出しているのかと思ったら
はなれた所からここの皆が座るテーブルを見定めているのだ。
実際の対象を見つめて
なんとデッサンの極みだろう。
いい時間だった。


学芸会帰りのイトも登場し
綺麗な青い靴を間違って踏むと
泥がついたと恨みつらみの顔をする。
何度か踏んでしまった。

シーは紅い髪の女性を描く。
着物に近い衣装をつけて
剣を持ち、衣らも紅い。
ソバージュというのはああいう毛質だったか
細かめなウェービーな髪
本人はそれが気に入らなかったりするらしいが、
モデルはアニメの主人公らしく
以前描いて気に入った一枚が
かばんから出て来た。

鬼滅の刃という
のが流行っているらしい。
鬼をやっつけるという
桃太郎とは違うストーリーらしいが、
各々に説明をしてくれるのが交錯している。

テンが叫ぶようにそれを取りまとめようとする。
わかった。俺が言うからと
一々の声を一本にまとめようという自負と意欲と
それが声量に現れるが、
ちょこちょこ茶々が入るので、
そのくだりが何回も続いた。

鬼にランクがあり、
取り仕切るボスがいて、
青いヤマンバを食べたら、
人が鬼になるらしい。
え、
おばあちゃん食べるのか、
しかも、青い。ヤマンバ。
と思ってたら
テンが
、ちがう!ヒガンバナ!

何故言い間違えたんだ。
山姥と彼岸花

ランマ登場。
久万から来た父親と
フードをかぶりいぶかしげな表情、
固まったまま動かない表情。
こちらを見ている。

ひとまず状況を説明し
傍らで話し掛ける。

机上の紙を丸めて
ボールをつくる風潮。
つくるならもう描いた紙にしてよ
と言われる。
綺麗な紙はもったいない
描いた紙と描いてない紙、どちらが
きれいかは議論の余地があるが
要はモッタイナイの精神で
ボールは生産されるのである。

大小白いボールが芝生に転がり
時に枝が太い枝がバットのように振られる。
ランマにポイと投げてみる。
見すえた表情はくずれない。
父親としばらくキャッチボール。

じょじょにこちらに交じるのは
ボールの求心力も相まって、
投げる時の真剣な顔。
笑顔も現れる。
いい笑顔だ。
ふいに
離れた父親を探して、
しかしこちらへ戻ってきた。
バッティングもこなす。
始めあわないタイミングも
噛み合えば長打。
ピッチャーを飛び越えて
向こうの芝生に落ちる。

すごい。
その若さで、
こんなに飛ばせるのかい。
バットを離せば
大小3つくらいのマイボールをキープして
時より投げてくる。
いい笑顔で、もしくは
真剣なスポーツマンシップで。

共同戦線は机上に移り、
クレパスで同紙に額を寄せ合う。
時より何故か
ランマは叫ぶ。
わっしょーい!
これはお祭り騒ぎだぜ。
ということだろうか。
そのペースは早まって
ほとんど数秒おきに
手を天高く突き上げて
一緒に
わっっしょーい!
これはもうお祭り騒ぎである。

タラさんが出雲の砂をくれる。
神有月のおぼしめし
小さな袋にはいった有り難い砂を
ランマは指突っ込んでほじくる。
取り出したいのか
小さな指にも小さい袋
引っ掛かって少しづつしか出せない。
先ほど描いた紙の上にこぼしていく。
これはさっきのストーリーを聞いた上での
判断だね。ランマくん。
これは全部出してやるという勢い
それで半分くらい外の空気を吸わせてあげた。
このありがたい砂をどうしようと
イトと見合って
ここらに蒔こうと広場に振りまいた。

シワシワにする大会再び。
紙を手に取って、こすり合わせる。
ひたすらに
以前去年くらいに見た技術。
しだいに薄く小さな擦り切れ穴が光にかざすと見える。
もうほとんど和紙。
道の駅あたりに並んでいそうな伝統芸能である。

丁寧にたたんでポケットティッシュサイズ
使用をためらわれるちり紙
高級はなかみ、しり拭き
描いていた色、描いた色
細かな凹凸に淡く色がのる。

お互いさわりあいながら
ああ、まだだね。とか
いいね。とか
職人同士のコミュニケーションも欠かせない。

ハルカがカレーパン2個目!と
大きく見開いた目で見合ったり、
シーが釣り竿をなくしたり、
テンが通貨キムチとにらめっこしていたり、
ある日の午後はそうやって
満たされる。