2/19


針金と紙飛行機
ワニはインターネットからとびだした。
イラストレーターでラコステ調の緑のワニ
店の木机で放課後の制作を進めるナツメは
母の指導を受け、タブレットとノートパソコンを並べ見つめている。

画像検索の先、見つけたのは
ペーパークラフトのワニの展開図。
リアルなカーブやイボイボ、肉感の質感を
見つけ、これをやろうとプリンターへ飛ばす。

有り体のA4に印刷し
やや小さいねと言いながら
切り抜きを始める。
鋭利なデザインカッターを片手に
荒く再現されたレーザープリンタの青緑が
それはそれでいい色となり
見開きのパーツがひとつずつ切り離されていく。
ほぼかすれた詳細がここが切れ目なのか
折り目なのかを分からなくさせる。

その紙厚が適当か
元来小さくなった型紙の
実に細かな、特に接合部分の
凹凸、オスメスの組立てが
思うようにいかない。

小さな穴に、返しのような幅を折り込んで
シュモクザメの頭をつっこむような作業が
時間と共に紙質を疲弊させ、
張りがなくなって、使いものにならなくなりそうだ。

テンが到着して、はたから見る
ペーパークラフトの現場。
情熱がやや膠着して、ワニの身体が
一部から全体に成りそうで成らない。
その一悶着をひとしきり見せてから
そうだ、こんなのもあるよ。と
持ち込んだ針金とそれを突き立てる厚い木の板。
昼休みに切って、仕事終わりにミゾを切って
針金をグサと固定できるように何枚かしておいた。
ひとまず適当にその太い針金をペンチで断ち切って
偶然巻いていたカーブをそのままに
縦溝に差し込んでみたら、いい形になった。
そんな経歴とまだ手付かずの数枚が隣の机にあるのを
テンに紹介してみた。

粘土がいくらかあったのを思って
針金の芯が木の土台から持ち上がり
空中に何か浮かべば面白いだろうという
想像のもと持参した一式だったが、
つまり別の想像の通り、
それらが思うように使われることは少ない。
そもそもそういう諦めと開き直りがこちらにもあるから
益々奔放に放り出された素材が行く当てもなく
そこいらを漂っている。

テンは木板に挿した針金をグッと延ばし
その直線めいた金属を天井に向けた。
あれは良かった。その時何も言わなかったが
いい形だった。

同時により柔らかい太めのアルミ線のような針金。
ひとつめの針金はより硬いしかし
いくらか負荷をかけるなら実用上使い良いものだった。
対してこれは
世界に立ち上がるには柔らかくて
形を保つよりも
あちこちからの力を受けて
その度それに合わせて動く。

球形の骨組みをつくるテン
長さが足りぬと、限りある線のやりくりを振り返る。
束ねてしばって行き交う梁の稜線がもう少しあれば
球であるという表面が想像しやすい。

別に土台を持ってきて
こちらも何かやってやろう。
適当に硬針を切って、グイと丸めて
両端を切れ目に差し込んで立てる。
そこに粘土で細く棒を垂らして、野球ボールの縫い目のように内側に2本
粘土同士を柔針でつなぐ。
空中で這う線が弱く姿勢を保つ。カーブする硬針を立て掛ける。
下端を木に立てて、バランスをもって止まる。
先が向こうへ曲がっていく。

ナツメがワニと格闘する中
僕はよそへ行ったと
ワニ沼からカムバック要請。
しかし無理なのだよ
この小さなしおれた紙先を
このつぶらな穴に差し込んで
しっかりと全身も固定仕上げて
口をパカパカさせてやろうという
ワクワクする情熱は確かにあった。
それが壁にぶち当たるたびにゆっくりゆっくりと
頭や胴体のまま別れたパーツのワニに見慣れていった。
その後一頭のワニに出会えるという想像は
次第に分解して、このワニはバラバラのワニなのだと理解し始めた。
あゝこれは諦めというものだろうか。


ドイ書店の主がやって来て学生の知り合いと二人で
チヨコレイトやカントゥリーマアムという甘味をお土産に
畳に座り、ナツメ母らと話している。
我々は少しずつその甘味に近寄り
いちご味のきのこの山に分け入り
竹の子の里に踏み入った。
まあ美味。
書店主のオカヤマくんは粘土できのこを作り
みかんを作り、そっと現実に混入する。
きのこ派タケノコ派のくだりも通って、
きのこの棒を確保しつつ、いかに早くチョコを食うか
という競技も始まる。
カントリーマアムを投げあっていたのは随分あとの方だったか

食べもので遊んではいけない。

チョコの包み紙に粘土が入ったのはオカヤマ派の手法だが
また別のチョコが入るという場合もある。
ノんがやって来て、チョコ偽造の輪に入る。
包みは同じだが俄然形がちがうぞ。
こんな四角くてでかくなんかなかった。丸かったのに、と思うと
ノんがニヤニヤしている。とてもニヤニヤしている。
極めつけはテんが終盤に見せた技、ピーナッツチョコが袋ごしに
少し小さい。あれ
と思って広げると
ピーナッツだけヒラっとあらわれた。
そう、そういう逸品。

夕食はチキンバンバン。南蛮。
美味しかったなあ。肉の塊が台所に並んでいたのを思い出した。
玄米ご飯がノんテん家からやってきて
こんなに柔らかいのね旨かった。
野菜ディップはマヨネーズと二種の味噌
盛り盛りのキャベツらボウルごと机を周る。

そうだここからだ。カントォリーマアムが空を飛び出した。
そう口でキャッチを始めて、袋ごと投げてキャッチも始まり
取り損ねて学生さんのグラスに飛んでダイブしたり、
大人のいさめるような視線をものともせず
お手玉の練習が始まり、
それでいて意外と中は割れてないねと
34歳の旗振り役がマアムの状態をチェックし、
そしてまた食品偽造集団あらわる。

マアムもて遊ばれる。

スティックのりの餌食になり
また1度開封されたものがテープ付けされている。
偽造犯の仕業だ。
矢継ぎ早のアイデア、
誰かのしたり顔が目に浮かぶ。
翌日、加工場の昼休憩にて
疲れを癒やす甘味に手を伸ばし
スティックのりのベタつきにやられるという
被害がでたことをここに記さねばならない。

様々な試みは
赤の中に白が入ってたり
もう一々の作品を提出される身になってみると
つまり豊富なクッキーをいただくわけですから
どんどんお腹いっぱいになってくるわけです。
もう口がマアムで水分をください。
糖分と小麦粉をセーブしなさいと脳みそから指令が来るわけです。
そういった飽食の時代を生き抜いて
少し太れたなら本望でありますが、
今回わかったことはカントリーマアム意外と丈夫。