早く来た。そしてワンピース

車が坂を下ると、ゆるやかなエンジン音が響いて
顔を出すと、ゆっくりと下りる一台。
ブルーの新調した軽がハルカミーを乗せてきた。

夜勤明けの母は少し眠そうにして
サッカーボールを下げた兄のあとに
妹が続く。
ほどなくハルマコも現れ、
続いてミコテンチワシー。

しばらくして見つかるのは
先回のマイルドでヒロトから借りたワンピース。
3冊棚の所に置いてあったのを、これは
しまっておいた方がいいなと
そう思っていたが、暇がなく
何本もの手に掛かり
宝を見つけたような騒ぎになる。

これは最新刊じゃないか!と
軽く怒られているテンションで
単行本は手に取られる。
そして各地に散らばり、数人が読む。
テンはギブスが邪魔でページ送りが難だと、
介助を頼まれる。めくってくれと。
文字を読むのを煩わしいと、
音読を頼まれる。
いっそ黙読をしてやろうかという悪戯心も
それではいけない。僕にしか聴こえない。

次第、紙芝居屋のようになって
寄りつく額、オーディエンスの密集。
頭が邪魔だと後席から野次が飛ぶ。

いや実際無数の人物場面を語り分けるのは
技量声色が要ると、力不足を覚えながら、
それでもこの熱気と見開きへの視線、
集中する人だかりが快い。

ミーは運動がしたい。
背後から声がかかる。広場へ行こうと。
芝居は急には止まれない。
じゃあ2時まで。
もう一話だ。
いざ芝居終えると、まさに2時。
ミーが得意げに時刻を指差して、
皆でいざ出掛けよう。
小雨上がりの曇り空を歩き、
たどりつけば土がグチョグチョだ。
Wohh, あっちのクロッケー場は駄目だよ。
そうなると、広場を囲むように砂砂利で
まあ水はけのよい地面を使うしかない。
サッカーボウルは山用と言える。
家にもっと綺麗な空気も入ったやつがあるんだが
ここは山だ。どこかに飛んで転がって下山してしまう可能性がある。
それに備える為、このモデルを使うんだと
そういう風なことをミーは言っていた。
ガールズは広場の端のプラスチック土管に座り
観戦モード。リフティングでテニス。

時々落ちる水たまりか泥たまり。
山の上には女の子。
斜面を登るあれは誰だ。
下から見上げる我ら。
そして広場を一周ランニング。アンコールで
ラストもう一周ミーと二人。
全力で勝負だ。と息巻く曇り空
汗かいてゴール。
上着を手に皆のあとを追う。
帰り際大家さんのトラックに会い。
また誰かに上着を渡されて、ボールを蹴る。
ぞろぞろと山道を歩くのは見慣れぬ心地よさで、
平均年齢の位置が
何かを跳ねのけて、上気する。


我が家はワンピースの余波。
物語にふける年長は椅子に一人
ページをめくる。
面白い事はないかとねだる声、
持て余す気配。
静かな圧力に押されながら
何かしたいことが始まるまで
そのうねりを腹に含んで
そこに居合わせるのみ。

さあさぁ次の瞬間へ行こう。